第75回 正倉院展

主な出陳宝物(おもなしゅっちんほうもつ)


 正倉院展は、第二次世界大戦が終わった翌年の昭和21年(1946年)に初めて開かれ、当時、敗戦でつらい思いをしていた人々を勇気づけたといわれています。それ以来、古都の秋を(いろど)恒例(こうれい)の行事として定着(ていちゃく)し、多くのファンを魅了(みりょう)してきました。


 75回目となる今年は、初公開の6件を含む59件が出展されます。なかでも、聖武天皇が愛用したとされる僧侶の衣装(いしょう)()(じょう)()(のう)(じゅ)()(しょくの)袈裟(けさ)」、螺鈿(らでん)という装飾技法(そうしょくぎほう)を用いた「(へい)螺鈿(らでん)(はいの)円鏡(えんきょう)」「(かえで)蘇芳染(すおうぞめ)螺鈿(らでんの)(そうの)琵琶(びわ)」は、目を引きそうです。ほかにも、サイの(つの)でつくった「犀角杯(さいかくのつき)」、花鳥画(かちょうが)()めた「鳥草(とりくさ)夾纈(きょうけちの)屏風(びょうぶ)」などが公開されます。いずれも奈良時代に花開いた天平文化(てんぴょうぶんか)を代表する名品です。それでは、主な宝物を8件ご紹介します。


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  • 九条刺納樹皮色袈裟

    ()(じょう)()(のう)(じゅ)()(しょくの)袈裟(けさ)

  • 犀角杯

    犀角杯(さいかくのつき)

  • 鳥草夾纈屏風

    鳥草(とりくさ)夾纈(きょうけちの)屏風(びょうぶ)

  • 青斑石鼈合子

    青斑石(せいはんせきの)鼈合子(べつごうす)

  • 碧地金銀絵箱

    碧地(へきじ)金銀(きんぎん)絵箱(えのはこ)

  • 紫檀小架

    紫檀(したんの)小架(しょうか)

  • 平螺鈿背円鏡

    (へい)螺鈿(らでん)(はいの)円鏡(えんきょう)

  • 楓蘇芳染螺鈿槽琵琶

    (かえで)蘇芳染(すおうぞめ)螺鈿(らでんの)(そうの)琵琶(びわ)

正倉院には、聖武(しょうむ)天皇が大切にされた品々をはじめ、今から1250年以上も前の宝物が伝わっているよ。古いもので後の時代へ残していく必要があるから、展覧会の時以外は見ることができないんだって
九条刺納樹皮色袈裟

九条(くじょう)刺納(しのう)樹皮(じゅひ)色袈裟(しょくのけさ)

 聖武天皇の愛用品を光明皇后が大仏にささげた時の宝物目録(もくろく)国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)』の最初に(しる)されている袈裟(けさ)です。仏教をあつく信仰(しんこう)した聖武天皇ならではの品で、当時最高の宝物と言えます。「刺納(しのう)」とは()()()いのことで、黄や緑、赤紫に染められた(きぬ)断片(だんぺん)斑状(はんじょう)(こま)かに縫い合わせ、樹木(じゅもく)(かわ)のような風合(ふうあ)いを出しています。


幅253cm 縦147cm

犀角杯

犀角杯(さいかくのつき)

 サイの(つの)の内部をくり抜いて作られたさかづきです。茶かっ色に白い斑模様(まだらもよう)が見えることから、インドイッカクサイという種類の角を用いたとみられています。素材(そざい)を活かした美しい表面や花びらのような形が特徴的です。


長径15.5cm 短径8.4cm 高さ5.0cm 重さ76.8g

鳥草夾纈屏風

鳥草(とりくさ)夾纈(きょうけちの)屏風(びょうぶ)

 かつて10組存在した屏風(びょうぶ)の一部が残ったものです。上の方に山や(ちょう)、下の方に草花や鳥、岩などを表現しています。夾纈(きょうけち)とは染織(せんしょく)の技法の一つで、この屏風は文様(もんよう)が左右対称になっているのが特徴です。中国の唐の時代に流行した花鳥画(かちょうが)屏風の姿を伝える貴重な品といわれています。


[第3扇]長さ149.0cm 幅54.0cm

[第4扇]長さ148.7cm 幅56.0cm

青斑石鼈合子

青斑石(せいはんせきの)鼈合子(べつごうす)

 スッポンの姿をリアルに表現しています。蛇紋岩(じゃもんがん)という種類の石を()ってつくった容器です。スッポンの両眼(りょうめ)は深い紅色(べにいろ)琥珀(こはく)をはめ込んでいます。甲羅(こうら)には北斗七星(ほくとしちせい)星座(せいざ)が金と銀で描かれています。亀類や北斗七星は古くから神聖視(しんせいし)されてきたため、不老不死(ふろうふし)の薬を入れたものではないかという説もあります。


長さ15.0cm 高さ3.5cm

碧地金銀絵箱

碧地(へきじ)金銀(きんぎん)絵箱(えのはこ)

 明るい青色の表面に、金泥(きんでい)銀泥(ぎんでい)で花枝をくわえた鳥や蝶を描き、(へり)には金色の小さな花の文様をあしらっています。華やかな装飾(そうしょく)から、仏さまへのささげものをおさめた箱とみられています。箱の内側には、綿(わた)入りのクッションも付いています。


縦27.9cm 横17.5cm 高さ10.6cm

紫檀小架

紫檀(したんの)小架(しょうか)

 いったい何に使われたのでしょうか。筆置(ふでお)きなのか、鏡台(きょうだい)なのか、掛軸(かけじく)など巻物状(まきものじょう)のものを()けたものか、いまも謎のままです。(あし)の付いた台の上に高級材のシタンでつくった鳥居形(とりいがた)を立て、鳥居形の柱の前後に象牙製(ぞうげせい)突起(とっき)を取り付けています。高級材をぜいたくに用いています。


高さ46.3cm 台長29.3cm

平螺鈿背円鏡

(へい)螺鈿(らでん)(はいの)円鏡(えんきょう)

 貝がらで文様を表す「螺鈿(らでん)」という装飾技法(そうしょくぎほう)を用いて製作された銅鏡(どうきょう)です。ヤコウガイと琥珀(こはく)で花文様を表し、()の部分は細かく(くだ)いたトルコ石を散りばめるなど、大変豪華(ごうか)なつくりです。正倉院には螺鈿(かざ)りの鏡が9面伝わりますが、その中でもとくに大型で、デザイン性の高い品です。


径39.3cm 縁の厚さ0.9cm 重5410g

楓蘇芳染螺鈿槽琵琶

(かえで)蘇芳染(すおうぞめ)螺鈿(らでんの)(そうの)琵琶(びわ)

 美しく装飾された4(げん)の琵琶です。4絃の琵琶は遠くペルシャに起源(きげん)をもつといわれます。背面(はいめん)はカエデ材を蘇芳色(すおうしょく)(暗い紫色)に染め、花や鳥、雲の文様を螺鈿(らでん)などの技法で表しています。表側の絃を()く部分には動物の皮が()られ、奥行きある風景の前方に、白象(はくぞう)の上で音楽を(かな)でて、()う人たちが描かれています。


全長97.0cm 最大幅40.5cm